地味な日常心霊体験小咄02【屋根裏の妖怪集団】
これは、数年前の事。
長期に渡って心霊現象に悩まされてる相談者のSさんに、霊視を依頼されてご自宅へと伺った際の話だ。
(Sさんには、ブログ等への掲載許可を頂いています)
Sさんは、とある古都に住んでいた。
Sさんのご自宅周辺を霊査してみると、沢山の人霊や物の怪の気配がする。
しかしこれは、古都ならではの霊気の濃さであり、悪いものという訳では無い。
次にSさんのご自宅を霊査したところ、陽当たりと風通しの悪さのせいで敷地内の〝気〟が滞り、霊が溜まりやすい状態になっていた。
しかし、それ以外にも何か、心霊現象の原因となるものがあるような気がする…。
私は再度、家の中をくまなく霊査する。
廊下を歩いていたところ、ふと頭上から妙な気配を感じた。
上方を見てみると、天井には小さな扉のようなものが。
「あれは、屋根裏への入口ですか?」
「はい、そうです」
「とても気になるので、開けてもらっても良いですか?」
Sさんは、廊下の隅に置いてある、先端がカギ状になった長い棒を手に持ち、屋根裏の入口に付いた金具に引っ掛けて、下へ向けて引っ張った。
ギィィ…と軋んだ音を立てて、屋根裏の入口が開く。
「えっ?!うわっ、何だこれ!」
私は、思わず大きな声を上げてしまった。
光の届かない、真っ暗な天井裏の中…そこには、年季の入った妖怪の大団体が居たのだ!
その数、ざっと100体以上。
彼らは入口から私を見下ろしながら、ギャーギャーわーわー騒ぎ、笑い、屋根裏中を走り回っている…。
「あの、どうされましたか?」
戸惑いながら、屋根裏の入口と私を交互に見るSさん。
「いや、これは…ええと、何て説明すりゃあいいんだ?
あんまりにも珍しい光景なんですよ…」
水木○げるの世界そのまんまの光景に、私は暫く興味津々でそれを眺める。
「Sさん。この家って、見たところ築50年くらいですよね?」
「はい、ちょうどそのくらいです」
「うーん、妙ですね。
屋根裏に、大量の妖怪が棲んでいるんですよ。江戸時代くらいから存在してる、比較的長命の妖怪ばかり。
けど、彼らは築50年ぽっちの家には適合しない〝気〟を持つ妖怪だ。
なので本当は、もっと古い家にしか棲めない筈だし、どういうワケなのか屋根裏だけにミッチリ詰まってるし、状況が特殊過ぎる。
何か、心当たりはありませんか?」
私の言葉に、Sさんはハッとして話し始めた。
Sさんの亡き祖父は大工で、この家は祖父が自力で建てたらしい。
その際、建築費用節約の為に、他所の古い家を取り壊した時に出た廃材を再利用したのだそうだ。
廃材となった他所の家とは、江戸時代に建てられたものだった。
そして、その廃材を使って造られたのが、正にあの屋根裏…との事だ。
つまり、あの妖怪の中の多くは、廃材になる前の家に、ずっと昔から棲んでいた連中だったのだ。
50年前と言えば、高度経済成長期の最中。
古い家屋は次々に姿を消し、近代的な家に取って代わっていった。
棲家を取り壊され、妖怪たちは居場所を失うが、他に移り棲めるような古民家は、もう殆ど残っていない。
実はひっそりと人間と共存していた妖怪や精霊は、こうして世の中の近代化と同時に淘汰されてきたのだ。
しかしSさんの自宅の屋根裏には、妖怪たちにとって慣れ親しんだ〝気〟をそのまま纏った廃材が、ふんだんに使われている。
普通の家には棲めなくとも、この屋根裏になら棲んでいられる。
こうして妖怪たちは、廃材にくっ憑いて屋根裏に住むようになった。
行き場を失って彷徨っていた他所の妖怪たちも、この屋根裏の気配に惹かれて、我も我もと寄り集まり、いつしか大集団となったのだ。
この妖怪たちは悪戯好きで、夜になると屋根裏から出て来て、相談者にちょっかいを出しまくっているようだった。
それは悪意じゃなく、楽しく遊ぶ悪ガキのようなものだ。
だとしても、妙な霊夢を見せられて睡眠妨害されたり、頻繁にポルターガイストで脅かされたり、金縛りを掛けられたり…というのは、Sさんにとっては迷惑行為でしか無い。
私はSさんに、状況を詳しく説明した。
「この屋根裏がある限り、この家は霊的存在にとって、興味の的です。
仮に、お祓いをして妖怪が居なくなったら、そのぶん変な霊がワサワサ寄ってくるのが目に見えます。
彼らは危険な妖怪では無いんで、祓わなきゃ重大な霊障が起きる…という事は、恐らく無いでしょうし、寧ろこのままにしておいた方が、家の中の霊的な濃度が一定に保たれて、厄介な霊が入って来づらいと思いますよ。
まぁ、天井裏のネズミみたいなものだと思って、気にしない・相手にしないのが1番ですね。
心霊現象については、これを持ってれば、ちょっかいを掛けられる頻度が減ります」
私は、作ってきた魔除けの霊符をSさんに渡した。
そして、家の中に溜まっている雑多な人霊を掃除し、妖怪が低活性化する家相のアドバイスをし、『人霊や妖怪にナメられない為の心得』をお話して、帰路についたのだった。
『科学の進歩によって、世の中は色々と便利になったけれど、実はそれと同時に失われているものが沢山ある』
…漫画によく描かれる、ありきたりなテーマだ。
そういう事もあるのだろうな、とは思っていたが、私にとってそれは単なる物語の域を出ず、自分には大して関係の無い事という認識だった。
しかし今回ばかりは、「あの家が取り壊される日が来たら、彼らは何処へ行くのだろうか」…と、想像せずにはいられなかった。
私は、近代化や科学の進歩について、深く嘆くような事はあまりしない。
それでも、限られた空間に密集して、陽気に騒いでいるあの妖怪たちの姿を見て、少し物悲しい気持ちになったのも、また本当なのである。
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